研究紹介

小児・先天異常研究グループ

はじめに

小児泌尿器科は泌尿器科の専門領域の一つで、おもに腎尿路・性腺・外性器の先天異常を持つ患児の手術療法を行う部門です。小児期の手術を行うだけでなく、児の将来にわたっての腎機能・生殖機能・排尿機能・性機能を守る成育医療も担当します。
2017年4月から医学研究科に「小児泌尿器科学分野」が設立され、初代教授として林 祐太郎先生が就任されました。名市大病院における小児泌尿器科学は、腎・泌尿器科学分野の第2代教授である大田黒 和生先生(昭和51年~平成4年)の時代にはじまり、第3代教授である郡 健二郎先生(平成5~26年)の時代に体系化され、さらなる飛躍をむかえました。小児泌尿器科疾患に悩む患者さんの紹介が増加しており、高度で専門的な医療を提供してほしいというニーズの高まりにより、国公立大学病院としては全国で初めて独立した診療部門として開設されました。
私たちは、小児泌尿器科疾患の病態究明と治療への応用をめざし、大きく3つのユニット(腎・尿路、性腺、外性器)に分かれて基礎・臨床研究を行っています。ユニット間で共通の研究テーマもあり、有機的に研究を行っています。

腎・尿路ユニット

対象となる疾患には、水腎症、膀胱尿管逆流、異形成腎などのCAKUT(congenital anomalies of the kidney and urinary tract:先天性腎尿路異常)や、総排泄腔外反・遺残症、二分脊椎による神経因性膀胱、夜尿症などがあります。基礎研究として、腎再生を目指してES細胞からの腎構成細胞への誘導や、CAKUT発症にかかわる遺伝子群の全ゲノム解析、尿路閉塞をきたす水腎症の組織学的研究などを進めています。臨床研究では、胎児水腎症の自然史の解明、膀胱尿管逆流における尿中マーカーと腎機能との関連性、夜尿症児における尿流動態の解明、などに取り組んでいます。

日本で初めて小児に行われた
膀胱尿管逆流に対するロボット手術

最新鋭の da Vinci® Xiと
手術前の研究チームのメンバー

性腺ユニット

対象疾患には、停留精巣、性分化疾患、陰嚢水腫などの精巣や陰嚢内疾患があります。基礎研究として、生殖細胞の発生メカニズムの解明、性分化・精巣発生における遺伝子発現制御機構の研究をはじめとし、停留精巣モデル動物を用いた精子形成障害の病態解明に取り組んでいます。近年の研究から停留精巣では精子幹細胞の分化障害が起きることを見出し、初期精子形成過程に、ヒストン修飾やmicroRNAによるエピジェネティックな遺伝子発現制御が関わることを明らかにしてきました。
臨床研究では、性分化疾患の性腺組織における変化や悪性腫瘍発生のメカニズム解明、精巣血流を温存した腹腔鏡手術の開発などに取り組んでいます。

妊娠母体のアンドロゲン遮断による停留精巣モデル動物とその精巣組織

正常         モデル

正常     停留精巣

(Mizuno K, Hayashi Y, et al. Int J Urol. 14: 67-72, 2007)
(Mizuno K, Hayashi Y, et al. J Urol. 179: 1195-1199, 2008)

外性器ユニット

対象疾患には、尿道下裂、埋没陰茎、先天性副腎皮質過形成、などが含まれます。基礎研究では、胎児期に男性ホルモンを遮断することによる尿道下裂モデル動物の作成や、このモデル動物を用いて尿道・陰茎形成に関わる遺伝子群の網羅的解析などを行っています。臨床研究として、新しい尿道下裂手術の開発や、尿道下裂患児における性腺・性機能の長期経過観察、内分泌環境の評価、など成人へのトランジションを見据えた研究を進めています。

尿道下裂モデル動物の陰茎と外尿道口の位置

近位型

中間型


遠位型

正常

: 外尿道口)

(Kurokawa S, Hayashi Y, et al. BJU Int. 109: 926-932, 2011)

最後に

胎児期から成人にいたるまで、さらに、腎尿路・性腺・外性器にまたがる広大な研究領域が私たちの取り組むべきテーマとなります。もちろん、これらの全容解明には至っておりませんし、そのためには私たちと一緒に研究を進めてくれる仲間が必要です。少しでも興味を持っていただけたら、この魅力的なフィールドにぜひ飛び込んで来て欲しいと思います。

第26回 日本小児泌尿器科学会総会・学術集会 (2017年7月) を主催した時のメンバー

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