研究紹介

尿路結石研究グループ

尿路結石とは

尿路結石は、遺伝要因に環境要因が加わって発症する多因子疾患です。日本における尿路結石症の発症頻度は、食生活の欧米化に伴いこの40年間で約3倍に増加し、生涯罹患率は約12%、5年再発率は約50%にもなり、今や国民病となっています。
私たちの研究室では、前教授の郡健二郎先生の頃から、国内外の研究者とともに基礎的研究を継続し、尿路結石の形成機序を分子レベルで解明することに世界に先駆けて成功しました。さらに現在では、今までの研究成果を踏まえ、尿路結石形成の①リスク診断(疫学研究) ②機序解析(結晶解析、トランスレーショナルリサーチ、遺伝子解析) に加えて、③新しい治療法(外科的治療、再発予防)を開発するなど、さまざまな角度から尿路結石を治療する取り組みを行っています。

図1:研究テーマ

尿路結石のリスク診断:疫学研究

尿路結石は、全世界で増加している生活習慣病のひとつです。わが国でも1960年代以降、尿路結石の罹患率が約2倍に増加しています。わが国で尿路結石が増加している原因のとして、食生活の欧米化やライフスタイルの変化、画像診断の進歩などが考えられています。しかし、これまでに尿路結石の発症や再発を予防する方法は確立していません。
私たちは以前から、尿路結石と動脈硬化とのあいだには、疫学的背景や発症メカニズムに類似点が多いことを報告してきました(Yasui T, et al. Scand J Urol Nephrol 2007.)。また1万名をこえる健診受診者を調査した疫学研究では、一度尿路結石にかかったことのある人は、現在検査で異常が認められなくても、肥満・高血圧・高尿酸血症などの生活習慣病を高頻度に合併していることがわかりました(Ando R, et al. J Urol 2013. 図表)。これらのことから尿路結石の発症や再発に対する予防は、併存する生活習慣病の改善を介して将来の心血管イベントの発症予防につながる可能性があり、大変重要です。
近年、尿路結石の原基とされるRandall plaqueに対する分子機序の解明が進んできました。その結果、慢性炎症や酸化ストレスが尿路結石形成に関与していることが明らかになってきています(Taguchi K, et al. J Am Soc Nephrol 2017.)。これまでの尿路結石予防は、飲水指導と結石形成を促進するシュウ酸やプリン体などの栄養素の摂取制限が主でした。私たちはこれまでの予防法に加えて、抗炎症・抗酸化作用に着目した新しい尿路結石予防法の開発を目指しています。

図2:尿路結石患者と生活習慣との密接な関係

機序解析:結晶解析

尿路結石は、90%以上を占める無機成分(シュウ酸カルシム、リン酸カルシウム、尿酸など)と数%の有機成分から構成されています。結石形成は、それらの成分をもとに、結晶核形成から始まり、成長、凝集、石灰化という過程を経て、放射状および層状に構造変化を呈しながら成長します。この特徴を踏まえ、尿路結石にはそれを構成する無機成分や有機成分の分布情報だけでなく、核形成からの成長過程における成長の軌跡など多くの情報が含まれています。
私たちは、尿路結石からこれらの情報を抽出するために、最新の技術・分析を応用し結石構造観察,標的化合物の分布(有機分子、無機分子)などの構造解析を行っております。結石成分のみならず空間分解能に優れた多面的構造成分解析を行うことで結石形成の機序を解明するとともに、将来的に尿路結石の成因の同定、治療・予防法の新規開発を目指しています。

図3:多面的構造成分解析による尿路結石の形成機序の解明

機序解析:トランスレーショナルリサーチ

基礎研究では、マウス・ラットや、培養細胞を用いて、尿路結石形成機序の解明と新規結石治療薬の開発を目指しています。動物実験では、シュウ酸前駆物質であるグリオキシル酸(GOX)投与による、結石モデルマウスの作成に世界で初めて成功しました。さらに、有機マトリックスであるオステオポンチン(OPN)ノックアウトマウスを使用し、OPNが結石形成を促進することを見出しました。近年では、様々な遺伝子改変マウスを用いて、メタボリックシンドロームや炎症性マクロファージ、ミトコンドリア異常やオートファジーの低下、褐色脂肪細胞の機能低下が尿路結石形成を促進することを報告しています。培養細胞を用いた実験では、ヒト、マウス、ラットの尿細管細胞を用いてトランスフェクションや遺伝子改変技術を用いて、より詳細な結石機序の解明を試みています。

図4:私たちが解明してきた尿路結石の形成機序

機序解析:遺伝子解析

尿路結石の発症は未だ不明ですが、家族歴などの遺伝に関わる点が多く、私たちは遺伝子を調べることでその病因を明らかにしようと試みています。
その1つに、遺伝子を構成するDNAの配列の個体差(遺伝子多型)に着目した研究を東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターとの共同研究により行っています。尿路結石症患者数千例の血液中のDNA情報を用いた遺伝子解析により、発症に関わる原因遺伝子の探索を続けています。
また、近年の内視鏡手術の発達によって可能になった腎結石部位の組織採取により、結石とその前駆病変となる石灰化の周囲の組織を調べることにより、結石発症を促す遺伝子ネットワークを調べています。カリフォルニア大学サンフランシスコ校との共同研究により、結石発症には人種差にとらわれない遺伝子要因があることが示唆されており、今後さらなる研究をすすめています。

図5:尿路結石発症に関わる腎組織内の遺伝子ネットワーク

治療:外科的治療

尿路結石の外科的治療には、主に体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、経尿道的尿管砕石術(TUL)、経皮的腎砕石術(PNL)があります。結石の大きさや位置、患者様の状態を考え、治療方法が選択されますが、私たちはより正確で低侵襲な治療を目指して取り組んできました。
ESWLは体の外から結石に向かって衝撃波を発射し、結石を砕く方法です。入院日数も少なく低侵襲なため、患者様にとって満足度の高い治療ですが、砕石効率が低くなることが問題としてあげられます。そこで、私たちはファントム(トレーニングモデル)を用いたESWLトレーニングを行い、治療成功率をあげる工夫を行っています。
さらに、私たちは巨大な腎結石に対する治療も積極的に行っています。20mmを超える腎結石に対する治療の第一選択はPNLとされています。PNLは腰(皮膚)から腎臓まで筒(トラクト)を挿入し、その筒を通して内視鏡を腎臓の中に入れて砕石する方法です。太いトラクトで砕石・抽石するため大きな結石を効率的に治療できるメリットがありますが、出血や感染症などの重篤な合併症が起こる危険性も高いことが問題です。そこで、私たちは、通常よりも細いトラクトを使用し、砕石・抽石効率の高いPNLと、観察範囲の広い軟性尿管鏡(TUL)を組み合わせることで、高い治療成功率が達成できる手術を積極的に行い、良好な治療成績をあげています。

図6:経皮経尿道同時アプローチによる内視鏡治療(Endoscopic combined intrarenal surgery)

治療:再発予防

尿路結石は50%以上の方に再発する疾患です。その原因には、飲水不足だけでなく肥満、高血圧、高尿酸血症、糖尿病、骨粗鬆症など、多くの内科的疾患があり、再発を防ぐためにはこれらを同時に治療する必要があります。一方、尿路結石の患者さんを正しく精査すれば、こうした疾患を早期発見することもできるといえます。
尿路結石は破砕して取り除くことのみに目が行きがちですが、尿路結石の真の治療は、いかに成因を突き止め、予防するかにあります。このことにより、生命に係わる大きな病気を予防できる可能性があります。

最後に

私たちは、安井教授を中心に、尿路結石の診断から治療、そして再発予防に至るまで、さまざまな問題を解決するため日々、臨床や研究を行っています。しかし、尿路結石の原因はまだまだ分からないことがたくさんあります。私たちは上記に示した基礎研究・臨床研究の成果に基づき確立した新しい結石形成機序に着眼し、これまでにない新規治療法、新規予防薬の開発に取り組んでいきます。

図7:研究グループメンバー

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